相続したマンションを路線価に基づいて算出した相続税評価額が実勢価格より低すぎるとして、再評価し追徴課税した国税当局の処分の妥当性が争われた訴訟の上告審判決で、最高裁は、国税当局の処分を適法とし、相続人側の上告を棄却しました。国税当局の処分を妥当とした一、二審の判断を是認し、相続人側の敗訴が確定しました。
この訴訟事案は、東京都杉並区と川崎市にある2棟のマンションの相続の評価額を巡る争い。父親が2009年に銀行融資を受けて計13億8,700万円で購入し、相続人たる子供らが2012年に相続しました。子供らは路線価を基に2棟の価格を計約3億3,370万円と評価。銀行融資の借入残高などを差し引き、相続税額を「0円」と申告しました。
国税当局は独自の不動産鑑定に基づき、評価額を計約12億7,000万円と見直し、約3億3,000万円を追徴課税しました。一、二審は、路線価を基に評価すると税負担の公平を著しく害するのは明らかで、追徴課税は適法と判断していました。
今回のケースは約3億3,000万円の評価で申告された相続財産を、国税当局が約12億7,300万円と再評価したことが争点でした。この事案は複雑なスキームを使った租税回避ではなく、借入金をもとに不動産を取得して相続する一般的な節税手法でした。相続税法は、不動産の相続税について、相続財産は「時価」で評価すると規定していますが、国税庁は、利便性などのため、原則として取引価格の8割程度とされる「路線価」で評価するとした時価の算定基準を相続税評価通達で認めています。
ただし財産評価基本通達の総則6項で「著しく不適当と認められる財産の価額は国税庁長官の指示を受けて評価する」とする例外規定、いわゆる「伝家の宝刀」が盛り込まれています。この判決のポイントは、この例外規定の適用について初めて判断の枠組みを示したことです。
判決は「合理的な理由がない限り違法」として、路線価に基づく評価と実勢価格に大きな差があるだけでは、相続財産の評価基準に路線価を示しているのは法的効力のない国税庁の通達にすぎないことを理由に「相続税法に反しているとはいえない」と指摘しました。一方で、「租税負担の公平に反するというべき事情がある場合」は例外規定の適用を追認したのです。この事案に当てはめた際、第3小法廷が重視したのは、高齢の父親によるマンション購入について相続人らが「近い将来の相続で税負担を減らすものだと知っていた」点。借入金で不動産を購入することができない他の納税者との間に「看過しがたい不均衡を生じさせ租税負担の公平に反する」として、例外規定の適用を認める結論を導いたのです。
(2022年4月19日最高裁第3小法廷)
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